文部科学省は、小学6年と中学3年の全員を対象に4月に実施した、2025年度全国学力・学習状況調査の結果を公表しました。
中学3年の数学の全国の平均正答率は48.8%(前回53.0%)で、5割を下回りました。
中学3年の国語も下落し、54.6%(前回58.4%)でした。
小学6年は国語・算数ともに、2024年度を下回ったそうです。
2025年度全国学力・学習状況調査 中学3年生数学正答率50%割れ 国語も下落
これは見方を変えれば、「ライバルより頭抜けられるチャンス」かもしれません。
しかし、文部科学省をはじめとした教育関係者は頭が痛いでしょうね。
一つ言えるのは、世の中が急速に変化し情報が溢れ、興味関心の対象が多様化するなかで、従来の学校教育がますます難しくなっています。
その結果、その多様化に対応するために、学校や教員に「アレもコレも」と求めすぎているのではないでしょうか?
これでは、ますます学校教育に携わる人の人手不足に拍車をかけるのではないでしょうか?
教育のデジタル化は誰がやるのか?
前回の記事で「GIGAスクール構想」を取り上げました。
GIGAスクール構想では、教育格差の是正や情報活用能力の育成、デジタル教材活用の指導、個別化された学習体験の提供などを目指しています。
この役割は誰が担うのでしょうか?
GIGAスクール構想におけるこれらの取り組みは、以下のような関係者や体制によって実施されています。
(1)教員
(2)ICT支援員
(3)GIGAスクールサポーター
(4)自治体や教育委員会
(5)外部専門家や企業
(1)教員
1.ICT活用指導力の向上
教員が中心となり、児童生徒に対してICTを活用した指導を行います。
これには、デジタル教材の活用や個別化された学習体験の提供が含まれます。
教員は、児童生徒の学習進度や理解度をリアルタイムで把握し、きめ細かな指導を行う役割を担います。
2.研修と支援
教員のICT活用指導力を向上させるため、文部科学省や自治体が研修プログラムを提供しています。
また、ICT支援員やアドバイザーが教員をサポートする体制も整備されています。
(2)ICT支援員
1.技術的サポート
ICT支援員は、学校現場で教員や生徒がICT機器を効果的に活用できるよう、技術的なサポートを提供します。
これには、端末の管理やトラブル対応、デジタル教材の導入支援などが含まれます。
(3)GIGAスクールサポーター
1.導入初期の支援
GIGAスクールサポーターは、ICT環境の整備や運用を支援する役割を果たします。
これには、ネットワークの設計や使用マニュアルの作成、教員への指導方法のアドバイスなどが含まれます。
(4)自治体や教育委員会
1.政策と運営の推進
自治体や教育委員会は、学校間や地域間の格差を是正するための政策を推進します。
また、ICT環境の整備や運用に関する予算の確保、指導体制の構築を行います。
2.地域間格差の解消
都道府県を中心に「GIGAスクール推進協議会」を設置し、地域間の教育格差を解消する取り組みを進めています。
(5)外部専門家や企業
1.デジタル教材の提供
外部の教育関連企業が、学校向けにデジタル教材や学習ツールを提供しています。
これにより、児童生徒がICTを活用した学びを深める環境が整備されています。
2.技術支援
富士通、内田洋行、NTTなどの企業が、タブレット端末やデジタル教材の運用を支援し、教員や生徒が効果的に活用できるようサポートしています。
文部科学省は、上記のような体制を整えて、GIGAスクールを進めようと考えています。
しかし、「教員を中心に」となっていますが、教員は教科の学習指導が本業ではないでしょうか?
小中学校の教員の職務内容は、以下のものです。
教育活動に関する職務(授業の準備と実施)、生活指導や道徳教育、学級運営と学校行事、保護者や地域との連携、そしてそれ以外のさまざまな校務と事務作業があります。
これだけでも、個々の児童生徒に合わせたきめ細かい仕事が必要なのに、果たして教育のデジタル化など可能なのでしょうか?
GIGAスクールの行きつく先が、まさか「先生と生徒の常時接続」だとしたら、どちらも気が抜けなくなって疲れ切ってしまうでしょう。

ICT支援員、GIGAスクールサポーターの確保は進んでいるのか?
ICT支援員やGIGAスクールサポーターの確保状況
教員以外の専門家がICT活用を支援する体制として、ICT支援員やGIGAスクールサポーターの配置が進められていますが、現状には課題も存在します。
(1)ICT支援員の配置状況
1.配置数
2023年度末時点で、全国に7,172人のICT支援員が配置されており、約4.5校に1人の割合です。目標である「4校に1人」の配置基準には近づいていますが、地域によってばらつきがあり、約3割の自治体では基準を満たしていない状況です。
2.課題
ICT支援員の採用には人手不足や予算の制約が影響しており、十分なスキルや経験を持つ人材の確保が難しいという問題があります。また、採用後の研修やフォローアップ体制が不十分で、現場での課題解決能力が不足しているケースも見られます。
(2)GIGAスクールサポーターの配置状況
1.未配置の割合
GIGAスクールサポーターは、学校のICT環境整備の初期対応を担う専門人材ですが、2024年時点で小学校の75.0%、中学校の75.8%が「未配置」とされています。このため、多くの学校でICT環境整備の負担が教員に集中している状況です。
2.補助金制度
国はGIGAスクールサポーターの配置を促進するため、補助金制度を設けていますが、現場での導入が進んでいない自治体が多いのが現状です。
(3)改善に向けた取り組み
1.日本規格協会(JSA)規格の改正
ICT支援員の役割を拡大し、教育データ活用や生成AIの活用など、最先端のICT授業に対応するための規格改正が2025年に行われました。この改正により、ICT支援員の業務内容が明確化され、専門性の向上が期待されています。
学校におけるICT支援員の規格を改正しました|派遣事業|ウチダ人材開発センタ
2.外部委託の増加
教育環境の悪化を背景に、ICT支援員やGIGAスクールサポーターの確保を外部企業に委託する自治体が増加しています。これにより、専門人材の確保や質の向上が図られています。
まとめ
ICT支援員の配置基準が「4校に1人」とは随分少ないと言わざるを得ません。
GIGAスクール構想の担い手に位置付けられている自治体や教育委員会、外部専門家や企業というのは、あくまで側面支援しかできません。
彼らが教壇に立ち生徒と日々向き合うわけではありませんよね。
GIGAスクール構想は結局主に教員が担っているのが現状で、ICT支援員の活躍がカギとなります。
人手不足や地域格差は当初から予想されていたことであり、このままでは、GIGAスクール構想は絵に描いた餅だと言わざるを得ません。
「日本経済団体連合会(経団連)」という団体をご存じでしょうか?
要するに企業の団体です。
この団体は、将来社会を支え、企業を支える人材の育成が必要だとして、教育現場に数々の提言(注文)を行っています。
「学校の教職員や教育委員会は、未来社会を支える人材を育成しているという気概を持って、変革に取り組むことが重要である。」
CSR、消費者、防災、教育、DEI | Policy(提言・報告書) | 一般社団法人 日本経済団体連合会 / Keidanren
人材の育成が必要だというのは分かりますが、学校に何でもかんでも押し付け過ぎではないでしょうか?
家庭での日常生活のしつけまで先生にお願いしているのが現状ではないでしょうか?
その結果が、冒頭に書いた学力低下の問題、不登校の増加やネットやSNSを悪用した非行などの増加です。
繰り返しになりますが、教員の職務内容の範囲を超えて、「アレもコレも」と押し付けていませんか?
世の中が急速に変化し価値観が多様化するなかで、教育も多様化が求められています。
というより、時代の流れに逆行することはできないので、そうするしかありません。
しかし、教員からしたら「できるわけねーだろ!?」というのが本音ではないかと思います(念のため申し添えれば、管理人は教員ではありません)。
デジタルネイティブの若くて優秀な先生は、ICT教育にも難なく対応するかもしれませんが。
文部科学省の見解としては、ICT支援員の配置基準が現場のニーズに十分応えられていないことを認識しており、地域格差や人手不足の解消に向けた取り組みを進めています。
NEXT GIGAや運営支援センターの設置を通じて、ICT環境の改善と教育の質向上を目指しているものの、課題解決にはさらなる努力が必要です。
以上、前回に引き続きGIGAスクール構想に対する問題提起でした。
では、また。