どうやって子どもの学習意欲を向上させるかというのは教育の課題です。
以前、「やる気スイッチ」をうたうCMが登場して、慣用句になるほど広まりましたね。
上の課題を一言で表すので、非常に優れたキャッチコピーです。
考えた人すごいなと思ったら、「スクールIE」という学習塾を経営する「やる気スイッチグループ」の創業者、松田正男氏が考案したそうです。
学習意欲を高める方法やその理論については、教育心理学や動機づけ研究の分野で多くの研究が行われています。
以下に、学習意欲に関する主要な理論と、それに関連する研究者について解説します。
学習意欲を説明する主要な理論
- 自己決定理論(Self-Determination Theory, SDT)
概要: 自己決定理論は、学習意欲を内発的動機づけ(intrinsic motivation)と外発的動機づけ(extrinsic motivation)に分けて説明します。
内発的動機づけは「学ぶこと自体が楽しい」という感覚に基づき、外発的動機づけは報酬や評価など外部の要因によるものです。
この理論では、以下の3つの基本的欲求が満たされることで学習意欲が高まるとされています。
自律性(Autonomy): 自分で選択して行動している感覚。
有能感(Competence): 自分が成長し、課題を達成できる感覚。
関係性(Relatedness): 他者とのつながりや共感を感じること。
研究者: エドワード・デシ(Edward Deci)とリチャード・ライアン(Richard Ryan)
プロフィール: デシとライアンはアメリカの心理学者で、自己決定理論を提唱しました。
彼らの研究は教育、職場、スポーツなど幅広い分野で応用されています。
- 期待価値理論(Expectancy-Value Theory)
概要: この理論では、学習意欲は以下の2つの要素によって決まるとされています。
期待(Expectancy): 自分が成功できるという信念。
価値(Value): その活動が自分にとってどれだけ重要であるか。
例えば、「この課題を達成することで将来役立つ」と感じると、学習意欲が高まります。
研究者: ジャック・アトキンソン(John W. Atkinson)やアラン・ウィグフィールド(Allan Wigfield)
プロフィール: アトキンソンは動機づけ研究の先駆者で、特に達成動機づけに関する研究で知られています。
ウィグフィールドは教育心理学者で、期待価値理論を教育現場に応用する研究を行っています。
- ゴール理論(Goal Theory)
概要: ゴール理論では、学習者がどのような目標を持つかが学習意欲に影響を与えるとされています。目標は以下の2種類に分類されます。
達成目標(Mastery Goals): 知識やスキルを向上させることを目的とする。
遂行目標(Performance Goals): 他者と比較して優れていることを示すことを目的とする。
達成目標を持つ学習者は、失敗を成長の機会と捉えやすく、長期的な学習意欲が高まる傾向があります。
研究者: キャロル・ドゥエック(Carol Dweck)
プロフィール: ドゥエックはアメリカの心理学者で、特に「マインドセット理論(固定的思考 vs 成長的思考)」で有名です。
彼女の研究は、学習者が成長を信じることで学習意欲が高まることを示しています。

- フロー理論(Flow Theory)
概要: フロー理論では、学習者が「フロー状態(没頭状態)」に入ることで学習意欲が高まるとされています。
フロー状態は、課題の難易度と自分のスキルが適切に一致したときに生じます。
この状態では、時間を忘れるほど集中し、学習が楽しいと感じられます。
研究者: ミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi)
プロフィール: チクセントミハイはハンガリー出身の心理学者で、フロー理論を提唱しました。
彼の研究は、教育だけでなくスポーツや芸術の分野でも広く応用されています。
- 社会的学習理論(Social Learning Theory)
概要: この理論では、学習意欲は他者の行動を観察し、それを模倣することで高まるとされています。
特に、ロールモデル(親や教師、友人など)の存在が重要です。
ロールモデルが成功する姿を見ることで、「自分もできる」という信念が生まれます。
研究者: アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)
プロフィール: バンデューラはカナダ出身の心理学者で、社会的学習理論や自己効力感(Self-Efficacy)の概念を提唱しました。
彼の研究は教育や心理療法の分野で広く活用されています。
学習意欲を高めるための実践的なポイント
内発的動機づけを重視する: 学習そのものを楽しめるような環境を整える。
目標を明確にする: 達成可能で具体的な目標を設定する。
成功体験を積む: 小さな成功を積み重ねることで自己効力感を高める。
フィードバックを活用する: 努力や成長を認めるフィードバックを与える。
学習環境を整える: 自律性や関係性を感じられる環境を作る。
これらの理論は、教育現場や個人の学習計画に応用することで、学習意欲を高めるための有効な手段となります。
学習意欲は単なる個人の特性ではなく、環境や目標設定、他者との関係性によって大きく影響を受けるものです。
学習意欲に関するいくつかの研究学説を見てきました。
こうやって見てみると、どれが正しいのかというより、同じことを色んな切り口から説明しているような気がしますね。
個人的には、3つめの「ゴール理論」が単純明快で分かりやすいかなと思います。