佐賀県の高校教育の変化と多様化:近年の特徴的な動向

今の30代、40代、50代の親世代。
子どもの教育が気がかりなのは言うまでもありませんが、どうしても親御さん自身の経験をベースにして教育を捉えがちです。
進学に対する苦労や思い入れが強ければ強いほど、その考えにこだわりやすく、自分の経験で子どもにモノを言ってしまいます。

しかし、まず冷静になって、10年前、20年前、30年前とは学習や教育の環境がおおきく変化していると考えたほうが間違いないでしょう。
今回は、かなり大雑把ではありますが、そうした教育環境の変化、変遷を頭に入れておきましょう。

別の記事で福岡県内の高校教育の近年の動向をまとめましたが、今回は佐賀県です。

1. 生徒数と定員数の推移

佐賀県のサイトにある「学校基本調査」では、福岡県の場合と同じく、佐賀県内の学校数、学級数、在学者数、教職員数、卒業後の進路状況などがまとめられています。

学校基本調査 / さが統計情報館TOP / 佐賀県

ここでは、一番古いもので、2002年(平成14年)からのデータが掲載されています。
これによると、生徒数と高校数は以下のようになっています。

区分2002年度(平成14年度)2025年度(令和7年度)
高等学校数公立3835
私立89
4644
高校生徒数公立全日制本科25,93215,890
定時制603167
私立全日制本科7,0805,719
専攻科96132
33,71121,908

2002年(平成14年)は、今から約24年前になります。
まず生徒数全体を見ると、33,711人から21,908人で35.0%減、一方、学校数は46校から44校で4.3%減となっています。
ちなみに、教職員数は2002年(平成14年)に2,444人だったのが、2025年(令和7年)には1,967人で19.5%減です。

生徒数35%減に対して、教員数約20%減となっています。
学校数はあまり変わっていませんが、学校再編により平成30年から分校が新たに3校増えています。

約24年前と比べて、少子化によって数や規模の面で変化すると同時に、以下のように教育の質や内容も大きく変化しています。

2. 佐賀県における近年の高校教育の変化と多様化

少子化を前提に「再編」と「選択肢の拡張」を同時に進める局面

佐賀県の高校教育は近年、生徒数の減少に対応する学校・学科の再編(集約・統合)と、生徒の多様な進路・学び方に対応する制度や学科の多様化(中高一貫、単位制、通信制、総合学科的再設計等)を並行して進めるのが特徴です。
県教育委員会は「新たな生徒減少期に対応した県立高校再編整備実施計画(新実施計画)」を策定し、教育環境の確保と質的充実の両立を掲げています。

2.1 学校統廃合・再編(統合、新校化、校舎制など)

1) 統合による新校設置・段階的移行(2018年以降が目立つ)
県立高校の再編では、複数校を統合して「新設校」として立ち上げ、数年かけて完全移行するパターンが進みました。
例として、伊万里地域では伊万里農林高と伊万里商業高を統合して伊万里実業高を新設し、2021年に完全移行しています。
鹿島地域でも鹿島高と鹿島実業高を統合し「新・鹿島高校」を新設、2020年に完全移行とされています。

2) 校地・校舎を分けて活用する「校舎制」的運用
県議会での説明として、県内では県立高8校を再編し、2018年から順次4校を開校、地域の校舎を残しつつ学科等で分かれて複数校舎を活用する「校舎制」を取っていると報じられています。完全な一極集中ではなく、地域アクセスも意識しながら再編する設計が読み取れます。

3) 小中の統廃合の加速が高校段階にも波及する土台
高校そのものの話に限らないものの、県内で小中学校の閉校・統合が続いていることが報じられており(白石町で中学校3校閉校など)、将来の高校入学者数の減少をより確実なものとして高校再編を後押しする構図があります。

2.2 中高一貫教育:県立の「併設型」を軸に選択肢として定着

1) 県立の中高一貫校を明示して設置
佐賀県の県立学校案内では、致遠館高校・唐津東高校・武雄高校・鳥栖高校が「中高一貫」として示されており、県立段階で中高一貫教育が制度的に位置づいています。

2) 「中学段階からの6年設計」で進学・探究を組み立てる発想
中高一貫は、入試・カリキュラム・進路形成を6年間で設計できるため、学力伸長と探究活動の一体設計を進めやすい枠組みです(県としても中高一貫関連情報を継続的に更新)。

2.3 単位制:個別最適な科目選択を制度化(代表例:佐賀北)

1) 県立高校で単位制課程を規則上位置づけ
県立学校の課程を定めた規則で、佐賀北高校は「全日制課程(単位制)」および「通信制課程(単位制)」として整理され、普通科等が置かれています。
全日制・通信制双方で単位制を活用している点が特徴です。

2) 単位制=選択幅拡大による多様な進路対応
佐賀北高校は1996年度から単位制を導入し、生徒の希望に応じた科目選択を可能にすることで個性伸長を図る、と学校側が説明しています。
進学志向・専門志向・興味関心の分化に対応する「制度インフラ」として機能しています。

2.4 通信制:公立は1校を核に、多様な受け皿としての役割が拡大

1) 公立通信制は佐賀北が中心
佐賀県では公立の通信制高校は佐賀北高校のみと紹介されています。
公立通信制の選択肢が限定的である一方、県としては1校に機能を集約して提供している形です(通信制も単位制で運用)。

2) 学び直し・転学・多様な事情への対応策として重要性が上昇
通信制は不登校経験、就労、育児・介護等、多様な事情を抱える生徒の継続就学の受け皿になりやすく、「高校教育の多様化」の中核的要素になっています(制度面の位置づけは規則で明確化)。

2.5 総合学科・学科再編:地域ニーズに合わせた「系列再編」「新コース」などの調整が進行

1) 総合学科の“中身(系列)”を組み替える動き
学科等改編の報道例として、唐津青翔高校では総合学科の5系列を3系列へ再編する、とされています。
総合学科を「置く/置かない」だけでなく、系列数・内容を整理して学校の強みを作り直す動きが特徴です。

2) 普通科もコース制などで“実質的多様化”
同じく改編例として、神埼高校が普通科に「こども教育進学コース」を新設する、と報じられています。
普通科の内部に明確なコースを設け、地域の人材需要(教育・保育等)や生徒の志向に接続する形です。

2.6 「魅力化」「県外募集」「地域連携」:統合・減少局面での生徒確保と学びの刷新

1) 県主導の“高校魅力化”を体系化(指定校制度)
県は「唯一無二の誇り高き高校づくり」プロジェクトとして、地域・企業・大学等と連携する「SAGAコラボレーション・スクール」や、ICT等も活用する「SAGAスマート・ラーニング」などを指定校で展開しています。
これは、再編による規模調整だけでなく、各校の特色を際立たせて選ばれる学校にする政策です。

2) 県外募集・全国募集(地域みらい留学等)で“外から生徒を呼ぶ”
県外の生徒が入学しやすいよう受検要件緩和を進め、有田工業高校や唐津青翔高校が「地域みらい留学」に参画して全国募集に取り組むとしています。
少子化下で県内需要だけに依存しない生徒募集を制度的に組み込む点が近年の特徴です。

3. 学区の再編についてはどうなっているのか?

佐賀県における県立高校(および県立中学校)の学区(通学区域)制度は、近年の段階的な再編を経て、現在は完全に撤廃されています。
これまでの再編の経緯と現在の状況は以下の通りです。

3.1 学区再編の経緯と完全撤廃

4学区時代(2015年度まで)
2015年度までは、全日制課程普通科において「東部」「中部」「北部」「西部」の4つの学区が設けられていました。
学区外からの受験・入学は原則として定員の20%以内に制限されていました。

2学区への統合(2016年度〜2022年度)
2016年度(平成28年度)入学生から、従来の4学区が以下のように2つの学区へと統合・再編されました。
・東部学区(旧東部学区と旧中部学区が統合)
・西部学区(旧北部学区と旧西部学区が統合)
この再編により通学区域は広域化しましたが、学区外からの受け入れ制限(定員の20%まで)は依然として維持されていました。

学区の完全撤廃(2023年度入学生以降)
佐賀県教育委員会は2022年6月に、県立中学校および県立高校の学区を完全に廃止することを発表しました。
これにより、2023年(令和5年)4月の入学生からは居住地による制限がなくなり、県内のすべての県立学校を自由に受験・志願できるようになりました。

3.2 完全撤廃に伴う影響と動向

学区の完全撤廃は、受験生や地域社会に以下のような影響を与えています。

生徒の選択肢の拡大
居住地に関わらず、自身の希望や進路、学校の特色に合わせた自由な学校選択が可能になりました。

競争率の変動と地元校への影響
学区の枠がなくなったことで、特定の人気校(佐賀西高校など実績のある進学校)への志願集中による競争率の上昇が懸念されています。
一方で、周辺地域の高校では志願者がさらに減少し、定員割れや統廃合の動きが加速するのではないかという懸念も指摘されています。

教育委員会の注視
県教育委員会は、学区撤廃に伴う子どもたちの志願先の動向や影響について、引き続き注視していくとしています。

4. 近年、新設された学科、「特色あるコース」

4.1 新設・改編された主な学科

近年、以下のような専門性の高い学科の新設や改編が行われています。

県立佐賀東高校のスポーツ科
西九州大学や外部団体と密に連携し、独自の特色ある授業を展開しています。
スポーツ系の大学や専門学校等への進学を目指す生徒を対象とした専門学科です。

私立高校における専門学科の展開
私立の佐賀女子高校では、普通科のほかに「食物科」「美容科」「衛生看護科」「衛生看護専攻科」といった、将来の職業に直結する専門学科が設置されています。また、敬徳高校では「自動車整備科」といった他校にはない専門学科が設けられています。

4.2 特色あるコースの導入

普通科の魅力を高める「普通科改革」の一環として、県立高校を中心に探究学習や地域連携を重視した新しいコースが設置されています。

県立高校における探究系コース
2023年度(令和5年度)の改編などを機に、普通科の内部に以下のような特色あるコースが導入されました。

唐津西高校(普通科)
「地域探究進学コース」と「学際探究進学コース」に分かれ、地域課題の解決や学際的なアプローチを取り入れた学びを提供しています。
鹿島高校(普通科)
「文理探求進学コース」と「未来探求進学コース」が設置されています。
特に未来探求進学コース(文系)では、学校設定教科を通じて、大学や企業でも求められる「MIRAIの力」(見つける力、イメージする力、理解する力、表す力、活かす力)を身に付ける先進的な教育を行っています。

私立高校における多様な専門コース
生徒の興味・関心やキャリア設計に合わせた細分化されたコースが用意されています。

佐賀女子高校(普通科)
既存の「保育コース」「ファッションコース」「美術コース」「進学コース」「ビジネスコース」に加え、2026年度からは新たに「トータルビューティコース」と「福祉コース」が新設される予定です。
佐賀清和高校(特別進学科)
難関大学への進学を目指す「S特進コース」や「A特進コース」など、学力伸長に特化したコース編成を行っています。

5. 佐賀県における近年の入試制度の動き

佐賀県における高校入試制度は、近年にかけて大きな制度変更が行われているほか、2028年度(令和10年度)入試に向けた大規模な改革が決定しており、現在非常に大きな過渡期にあります。

主な動きは以下の通りです。

5.1 2028年度(令和10年度)からの公立高校入試大改革

現在の中学1年生が受験する2028年度入試から、県立高校の入試制度が大幅に刷新されます。

入試時期の1カ月前倒し:これまで3月上旬に行われていた一般選抜(本試験)が約1カ月前倒しされ、2月上旬に「前期」試験として実施されます。

選抜制度の一本化と「前期・後期」制への移行:従来の「特別選抜」を廃止して「一般選抜」に一本化します。まず2月上旬に全受験生を対象とした「前期」試験を行い、そこで定員に満たなかった学校のみ、2月下旬〜3月中旬に「後期」試験を実施して再分配する仕組みに変わります。

「自己表現」など3つの選抜方式の導入:「前期」試験では、学校が設定した以下の3つの方式から受験生が選択して受験する形になります。

1)5教科の学力検査
2)3教科の学力検査 + 実技(スポーツなど)
3)3教科の学力検査 + 自己表現(作文やプレゼンテーションなど、学ぶ意欲を測る新たな方式)

5.2 私立高校における「併願入試」の全面的な広がり

近年の私立高校入試においても、受験生の動向を左右する大きな変化が起きています。

併願制度の導入:以前の私立高校の前期入試は「推薦・専願」が主流でしたが、近年は県内ほぼ全ての私立高校で「併願入試」が受けられるようになりました。
これにより、第一志望の公立高校を受験しつつ、滑り止めとして私立高校を併願する受験パターンが定着し、公立高校の志願倍率にも影響を与えています。

5.3 佐賀県における県立高校推薦入試の変化

近年の佐賀県「県立高校入試」における推薦入試(前期=推薦・特別選抜系)の扱いは、概ね次の流れで変化しています。

  1. 2020年度ごろ:推薦・特色系の枠組みが整理され「特別選抜」へ
    従来の「特色選抜」と呼ばれていた枠組みが見直され、制度上は「特別選抜」という形で再編されました。
    特別選抜では、学力検査(国数英の3教科)・実技/実績評価・面接・調査書などを組み合わせ、競技実績や特色ある教育課程などに対応する選抜として位置づけられています。
  2. 2023年度:県立高校入試で学区撤廃(推薦入試にも間接的に影響)
    2023年度入試から学区が撤廃され、県内のどの県立高校でも(学区の制限なく)受験できる仕組みになりました。
    これは推薦入試そのものの方式変更というより、出願行動や競争環境が変わることで、結果的に推薦枠を含む選抜全体の受験者分布・志願動向に影響する変化です。
  3. 直近〜2027年度まで:前期は「推薦等の対象者中心」、基本は後期(一般)学力検査が軸
    現行制度では、前期(推薦・特別選抜など)は対象者が限られ、選抜の中心は後期(一般選抜)の学力検査という運用が続くとされています。
  4. 2028年度から:前期が「全員対象」へ拡大し、推薦入試の位置づけが大きく変わる
    最も大きい変化はここで、2028年度以降は入試が「前期・後期」に再編され、前期で“すべての生徒を対象に選抜”を行う方向が示されています。
    さらに前期では、従来の方式に加えて、3教科(国語・英語・数学)+作文やプレゼン等の自己表現といった選抜方式を全学科で可能にし、募集定員の80〜100%を前期で確保するなど、前期の比重が高まる設計が報じられています。

5.4 公立高校の学区完全撤廃(2023年度〜)

少し遡る近年の動きとして、2023年度入試より県立高校の学区(通学区域)制限が完全に撤廃されました。
これにより、県内のどの公立高校であっても居住地による制限なく自由に受験できるようになり、生徒の選択肢が大きく広がっています。
このように、佐賀県では「学区の撤廃」に続き、「私立の併願化」「公立入試の前倒し・一本化」といった、少子化や多様化に対応するための極めてドラスティックな入試改革が連続して進められています。

まとめ

佐賀県の高等学校の生徒数は、少子化により約25年前と比較して35%減少しています。
町村部の過疎化も進み、県として教育体制、教育資源の合理化・効率化・再配置を進めています。
福岡県の記事で書いたように、公教育としての高い水準をいかに維持するかが求められています。

では、また。